相次ぐ指定管理者の撤退

朝日新聞山梨版2006年6月2日の記事から。http://mytown.asahi.com/yamanashi/news.php?k_id=20000000606020002

指定管理者が撤退
山梨市牧丘町の保養施設「オーチャードヴィレッジ・フフ」の指定管理者だったNPO法人が撤退し、施設の管理業務が市に返還されたことが1日、わかった。昨年末から休業状態だったが、市は6月議会に提出する補正予算案に維持費を計上、同日からは管理人を配置した。今後の活用方法は「庁内委員会で検討中」という。
 撤退したNPO法人は「牧丘芸術の丘」(理事長・萩原保正大和葡萄(ぶ・どう)酒社長)。市観光課などによると、委託期間は07年3月末まで1年残っていたが、萩原社長が体調不良などを理由に、今年3月末で事業撤退を決めたという。萩原氏は「山あいの施設では集客が難しく、維持管理や芸術品の展示に予想以上の費用がかかった。年間の赤字額は1500〜1800万円になる」と話した。
 旧牧丘町が総事業費約21億円をかけて建設し、92年に開業した。約7万4500平方メートルの敷地にホテルやレストランを備えた複合施設だった。
 町直営で1億5千万円以上に膨らんだ累積赤字を民間ノウハウで解消しようと、04年4月に県内自治体では「先駆け」として指定管理者制度を導入。運営団体に選ばれた同法人が同年6月、芸術展示施設としてリニューアルオープンさせた。
 入場料は無料で年会費1万円の個人会員を募る手法をとり、当初は売り上げを年間1億2千万円、来場者数を10万人と見込んだ。だが、会員はわずか17人にとどまり、来場者数は04年度約4300人、05年度(4〜11月)約1600人と年々減少していたという。

このNPO法人がどのような団体なのか,よくわかりませんが,2004年10月の毎日新聞の記事http://itp.ne.jp/topics/mainichi/19_08.htmlを読む限り,この指定管理者制度の導入にあたり,地域の篤志家が受け皿になったようにも読めます。
行政側がどの範囲まで指定管理者側に運営をまかせたのかわかりませんが,ざっと見てもいくつかの原因があるような気がします。
一つは指定管理者の公募段階でどれだけ情報を公開したかということ。92年に開業した施設ですから,年間の利用者数,維持経費は十分分かっていたでしょうけれど,どこまで応募側がそれをわかっていたのかということです。
二つめはNPOなり企業なりの指定管理者が運営を委託されたとしても,施設は市のものですから,PRその他で,従前同様の市のバックアップがされてもよいと思いますが,その点はどうだったのかということ。
三つ目は,施設に対する投資の問題。芸術品の展示を行うにあたって,運営側が投資を行うのか,施設の所有者(行政)が投資を行うのかということです。これはケースによってまちまちでしょうが,その部分で十分な相談がなされていたのか。どうも篤志家側がかなり無理して施設に投資を行っているようにも読めます。
http://d.hatena.ne.jp/ironsand/20060526#p2にも奈良県の指定管理者撤退の件をとりあげましたが,以後の運営が心配です。中途半端な制度運営は,より行政コストを高めてしまうことになります。たとえ撤退しない例であっても,例えば美術館を指定管理者に委託したとして,本来的な美術館の役割である芸術文化の振興機能が失われた運営となってしまったら,そもそも指定管理者に払う委託金自体の意味がなくなってしまいます。
行政側のガバナンスが問われる例でしょう。

2007年4月14日追記

閉鎖中のオーチャードヴィレッジに動き。テレビ山梨の記事から。

リゾート施設再開に向け説明会 04月13日 18時47分

 営業を休止している山梨市牧丘町のオーチャードヴィレッジ「フフ」で新たな指定管理者を募集することになり、きょう現地説明会が開かれました。
 オーチャードヴィレッジ「フフ」は、1996年に旧牧丘町が23億円をかけてオープンしたリゾート施設です。
 去年3月末に当時の指定管理者が、経営難のために任期途中で撤退して以来、営業休止が続いています。
 山梨市では来年4月から5年間の契約で新たな指定管理者を募ることになり、きょうは県内外の12の企業やNPO法人が現地説明会に参加しました。
 市では前回、指定管理者に撤退された反省を踏まえ、今回は新たに市または管理者に不利益が生じた場合の違約金の支払いを協定書に盛り込む方針です。
 新しい指定管理者の募集は、今月16日から来月25日までで、今年12月に決まる予定です。

違約金条項については,この日記でも何度か触れています。ただ,どこかの企業の隠れ蓑になっているNPOもあるように思いますが,NPOに一律に「違約金」条項を適用するのは,ちょっと違うんではないでしょうか。そもそも,指定管理者が撤退したからといって,休止しているのは,山梨市の怠慢です。市には市の責任があることをもう少し認識していただきたいと思います。

2008年4月26日追記

毎日新聞山梨版の記事から

オーチャードヴィレッジ・フフ:花に囲まれ再開 指定管理者撤退、乗り越え /山梨
◇山梨市営の宿泊施設
山梨市は4月から、06年3月から休業していた宿泊施設「オーチャードヴィレッジ・フフ」(山梨市牧丘町倉科)の営業を再開した。指定管理者制度の導入を巡って休業に追い込まれたが、市は研修などで再活用する。20日には「菜の花と山菜まつり」を開き、約700人が黄色い菜の花や地元で採れた山菜のてんぷらを堪能した。花の見ごろは4月末。
 市観光課によると、同施設は92年にオープンし、00年に指定管理者制度に移行したが、管理していた県内の業者が06年3月に撤退。07年4月に市が指定管理者を再募集し、県内3業者からビル管理会社1社を候補に選んだが、候補の業者は「老朽化した施設の修繕や維持管理に費用がかかり、経営が困難」として同10月に辞退したため、休業していた。
 菜の花は06年秋、約3000平方メートルにわたって植えた。まつりは昨年に続き2回目。
 まつりを主催した市観光協会牧丘支部の卜部星美支部長(67)は「この施設は晴れていれば富士山も見えて景観が素晴らしい。今後は、ヒマワリやコスモスなど他の季節の花も植えていきたい」と話した。近所の農業、沢登照子さん(67)は「花が奇麗で、普段の疲れも忘れます」と笑顔で話した。【小林悠太】
毎日新聞 2008年4月25日 地方版

施設の設置者である市として,廃止ではなく,責任を持って存続させたということで,とりあえずの決着が着いたようです。都市との交流の拠点,また地域の活性化の拠点として,市民による「オーチャードヴィレッジ・フフを支援する会」の取組みなども大きな支えとなったんだろうと思います。
民間活力,民間活力との呼び声で,PFIその他の大規模開発への大企業の参入,市場化テストなど契約の包括化による中小企業の排除,都内企業等の指定管理者指定など,地域の中小企業が契約から排除され,また,住民の思いが反映されない行政改革が進行中です。しかし,この「オーチャードヴィレッジ・フフを支援する会」など,地域住民と行政が連携して進めることこそ,本来の民間活力だと思います。